- シーソーの一方を地に着けて冬
- この人の冬の句はピカイチだと思う。感性もさることながら、物で深い事が言えるのだ
という事を最初に教えてくれた句群である。20代だった作者。まだ独り身だったのだろう。
一人も子供がいない公園は、遊具も淋しげである。一方を地につけているという何でもない事の
発見が、この人の孤独な心象風景も映しているようである。写生とは心眼を磨くことか。見ただけ
では断じてない。
- 消し忘れ来し寒灯に待たれをり
- この句を読むとやっぱり独り身らしいとわかる。これほどのわびしさがあろうか。
前の晩から点いていた門灯だろうか、朝出るとき消し忘れていたのだ。それでも真っ暗な中
を帰るのはもっとわびしい。もしかしたら、心の隅に、灯を点けて待っていてくれる人を切望
するあまりの無意識の点けっぱなしだったのかもしれない。
十分な力を持ちながら、あまり評論などを書かない潔さがあり、一部の人からはどうも
消極的と見られがちだったものの、こうしてよい作品は時間がたっても人の心に残る。それ自体
が時間の砂に埋もれるのを拒否する、そういう作品を作りたいものだ。シャイな性格もあろうが、
私は、むしろ彼の静かなプライドではなかったかと思っている。
(第一句集「二水」牧羊社)
- (H14年12月7日)松永 典子
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